作曲家たちは、旅をしてきました。バッハもモーツァルトもベートーヴェンも。
バッハは仕事でドイツ中を巡り、モーツァルトは演奏会のために、ベートーヴェンは温泉で湯治と作曲のために、旅に出ました。
ヨハン・セバスティアン・バッハ 〜 より良い仕事を求めて転勤を繰り返した、元祖転職家
1685年3月21日、ドイツ中央部のアイゼナッハ生まれ。今年は、バッハ生誕340年の年です。
8人兄弟の末っ子として生まれたバッハは、9才で両親と死別し14才年上の長男に引き取られて育ったと言われています。教会のオルガニスト(オルガン奏者)としてその経歴をスタートしたバッハは、その後、絶えずより良い仕事を求めてドイツ各地を巡りました。
アイゼナッハ → リューネブルク（15才…ミカエル学校、合唱隊）→ アルンシュタット（18才…教会のオルガニスト）→ ミュールハウゼン（22才…教会のオルガニスト）→ ワイマール（23才…宮廷オルガニスト兼宮廷楽師）→ ケーテン（32才…宮廷楽長）→ ライプツィヒ（38才…トマス・カントル兼ライプツィヒ市音楽監督、65才で死去）
＊カントル：教会音楽家。オルガニスト兼指揮者で教会付属学校の教師でもある。トマス・カントルとは、聖トマス教会のカントルのこと。
バッハが後半生を送ることになったライプツィヒは、のちに多くの音楽家たちに愛される街になりました。
名門オーケストラ「ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団」の指揮者となるメンデルスゾーン、ライプツィヒ大学で学んだシューマン、メンデルスゾーンが創立したライプツィヒ音楽院で学んだノルウェーの作曲家グリーグや日本の瀧廉太郎、そしてこの街出身のワーグナー。この街ゆかりの音楽家は、数え上げればキリがありません。そして、メンデルスゾーンは、バッハに憧れてこの街にやって来たのです。
【バッハの転勤先の地図】
天才はスーパー・トラベラー 〜 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
1756年1月27日、オーストリア・ザルツブルク生まれ。父レオポルト、母アンナ・マリア、姉マリア・アンナ（通称 ナンネル）。
最初の旅行は1762年、モーツァルトわずか6才の時、11才の姉ナンネル、父レオポルトの３人でザルツブルクを発ち、2日かけてドイツのミュンヘンまで出かけました。そこでは３週間滞在し、バイエルン選帝侯のもとで御前演奏をしたのです。
そして、その年の秋には早くも２回目の旅行に出かけています。２回目は母アンナ・マリアも加わり、４人でウィーンへと旅をしています。
そして、翌1763年から想像を絶する大旅行が始まるのです。
ザルツブルク（モーツァルト7才）→ ドイツ・ミュンヘン → シュヴェツィンゲン → マンハイム → フランクフルト・アム・マイン（14才のゲーテがモーツァルトの演奏を聴いていた！）→ コブレンツ → ベルギー・ブリュッセル → フランス・パリ → イギリス・ロンドン（1764年8才、1年３ヶ月滞在）→ オランダ・デンハーグ → アムステルダム（1766年）→ フランス・パリ → ディジョン → リヨン → スイス・ジュネーブ → ローザンヌ → ベルン → ドイツ・チューリッヒ → ミュンヘン → ザルツブルク（1766年11月）
1年３ヶ月滞在したロンドンでは、バッハの末っ子ヨハン・クリスチャン・バッハと出会い、親交を結ぶことになりました。クリスチャン・バッハはバッハ一族の中で唯一のオペラ作曲家でヘンデルの後継者、あるいはロンドンのバッハとも言われているようです。
３回目の旅行は、なんと3年半にも及びました。モーツァルト一家はその後も何度も大旅行に出かけていますが、家族全員が何度も重病になっているのです。
鉄道も自動車もない時代、こんな大旅行を企画した父レオポルト、それに付き合わされたモーツァルト一家、大変だったことでしょう！
でも、旅で得られた経験が、モーツァルトの才能をさらに高めることに役立ったに違いありません。
その後も、1767年にはウィーンへ、1769年12月からは1年半のイタリア旅行に出ています。イタリアへは、さらに2回出かけています。
ただ、母アンナ・マリアは、モーツァルト22才の時旅先のパリで病に倒れ、亡くなっているのです。
【モーツァルトの旅行地図】
また、2024年４月29日の「題名のない音楽会」で、温泉好きの作曲家たちが取り上げられていました。
そして、多くの音楽家たちが滞在先の温泉地で名曲を残しています。
ヘンデルのオンブラマイフ、ショパンのマズルカ作品67－1、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番第5楽章カヴァティーナなどがその一例です。
参考文献：樋口隆一「バッハ」新潮文庫
：西川尚生「モーツァルト」音楽之友社
：須藤唯哉 「ルポ ライプチヒを訪ねて」毎日新聞 2025年5月7日 夕刊
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